かもさんのひそひそ話

耳をすませば聞こえてくるよ

懐かしい朝食、ほろ苦い思い出

これまでで一番好きだった朝食は、母方の祖母が作ってくれたものでした。上海租界で育ち、若いころはたいそうハイカラな娘だったという祖母は、ブロッコリーやアスパラがたっぷりと入ったスペイン風オムレツ、バターをたっぷりと載せた厚切りのトーストを朝食に出してくれました。そこになぜか添えられた大根の赤だし味噌汁は、生粋の名古屋人だった祖父の好みの反映だったのだと思います。朝の光の中で台所から漂うバターと八丁味噌の香りは、田舎で過ごした思い出の大事な一コマです。

 

夏や冬の長い休みの期間は、きまって一人で田舎に送り出されていました。小さいころは母の付き添いつきで、小学校に入ってからは一人で電車を乗り継いで祖父母の住む町に向かいました。新幹線や特急を使わずに向かう3時間ほどの道のりは、子供のころの私にとってちょっとした冒険でした。周りに何もなく世界の果てのように感じられた駅で、乗り継ぎがうまくいかず心細い時間を過ごしたのも、今となっては懐かしい思い出です。不測の事態があっても簡単には連絡が取れない時代に子供を一人旅に送り出す親も、なかなか勇気があったなと今にして思います。

 

程よく山や田畑などの残る田舎は私にとっては大好きな場所で、優しい祖父母の思い出とともに幸せな場所として記憶に残っています。ただ、休みが終わりに近づいて自宅に戻るころになると、少しだけ憂鬱な時間が訪れます。祖母から、「ここで過ごす時間は楽しかった?」「おばあちゃんのおうちの子になる?」との問いかけが始まるからです。そして家に帰ると今度は、「うちと田舎のどっちが良かったか?」「本当は帰ってきたくなかったんじゃないか?」と、子供心にも答えづらい問いかけが始まるからです。

 

こういった問いかけの真意は、今となっては分かりません。ただ、周囲と比べて明らかに経済的に余裕がなく、また祖母と母の間に漂っていたよからぬ空気を踏まえると、あながち冗談でもなかったのかなとも思います。当時を振り返って、あの頃何と答えるのが正解だったのかと考えると、また当時の大人たちの心の内を想像すると切ない気持ちになるのです。

 

今週のお題「朝ごはん」