かもさんのひそひそ話

耳をすませば聞こえてくるよ

シジュウカラの巣立ち

毎年、秋になるとベランダにシジュウカラ用の巣箱をかけてやります。すると冬の間に親鳥が下見に訪れて、春先に巣を作り始めます。鳥の世界は住居難だそうで、ここ数年いつも巣箱は繁殖に使われています。今年は巣箱の中にリモートカメラを設置して、巣作りから巣立ちまでの様子を観察してみることにしました。

巣作り開始初日。家の周りのヒマラヤスギの葉が運び込まれている。

巣作りをするのはメスの役割で、毎日大量のスギの葉やコケを集めてきて巣箱に詰めていきます。持ってくる巣材が大きすぎて巣穴に入らず悪戦苦闘しているときもあります。巣箱の底から2~3㎝ほどの高さまで詰め終わったら、今度は動物の毛を持ってきます。このあたりには外飼いの動物はほとんどいないのに、どこから毛を調達しているのか不思議です。気づかないだけで、身の回りには意外に多くの野生動物が暮らしているのかもしれません。時々、人の髪の毛のようなものも運んできます。これもどこから持ってきたのだろうと思わされます。

スギの葉の上にコケを敷き、さらに動物の毛を載せた上に卵を産む。

巣がおおむね出来上がったところで、卵を産み始めます。教科書的には卵は1日1個ずつ産むそうですが、今回のメスは4日で8個の卵を産みました。何事も教科書通りではないとわくわくします。親鳥の栄養状態などに左右されるのかもしれません。産卵期間中、母鳥は夜の間は卵の上に乗って眠っていました。すべての卵がそろった後は昼夜問わず卵を温めて、父鳥が餌を運び込んでいました。

1羽目のひなが孵る。同じ日に7羽が孵化し、1つの卵は孵らなかった。

卵がそろってから12日目、孵化が始まりました。内側からひびを入れて、ひなが少しずつ体を出していきます。うまく出てこれないひなもいて、親鳥が卵の殻をむしってやっていました。卵の殻は親鳥が食べてしまいます。残念ながら1つの卵は孵らず、7羽のひなが育っていきました。

巣立ち前日。成鳥と比べて柔らかそうな羽毛。ただただかわいい。

生後17日ともなると、羽も生えそろい体色も親鳥と似てきます。羽はふわふわと柔らかそうで、翼や尾の羽は親よりも短く、サイズは親鳥よりも一回り小さめです。小さい顔に黒々とした丸い目、幼鳥特有の黄色いくちばしがとてもかわいらしい頃合いです。ただ、こうなってくるともうそろそろ巣立ちの時期です。

この写真を撮った次の日、雨模様の天気の少しの晴れ間をついて、親鳥が巣箱の外から子供たちに激しく呼びかけ始めました。また、餌を運びこむふりをしては与えずにそのまま外に出て、子供を外に出そうとします。子供もそれにこたえるように、巣箱の穴から顔を出します。そして、ついに巣立ちの時が来ました。

 

ベランダの巣箱から一番近くにある木までは10mほどの距離があります。巣箱から出てすぐにその木に移動しないと、子供の姿はカラスから丸見えになって食べられてしまいます。一昨年のひなは上手く飛ぶことができず、生まれた5羽のうち2羽が、巣立った直後にカラスの餌食になってしまいました。かわいそうですが助けてやることはできません。今年もひなの声を聞きつけて、カラスが巣箱のすぐ近くをうろうろしていました。

 

1羽のひなが巣穴から飛び出していきます。一度も飛んだことはなく、飛び方を教わったこともないはずです。羽ばたく練習をするには巣箱は小さすぎます。にもかかわらず、近くの木までまっすぐに、親鳥よりも不器用な飛び方ではあるもののひなは飛んでいきました。1羽が飛び立つと、残りのひなも先を争うように次々と出ていきます。7羽もひながいると、生育には優劣がつきます。でも、一番体が小さく弱弱しかったひなまでもが遅れずに巣を出て、わずか2分ほどの間に巣立ちは完了しました。今年は巣を出てすぐにカラスに食べられるひなはおらず、ひとまず安心しました。

 

家の周りを歩いていると、巣立ったばかりのひなの声がほうぼうから聞こえます。しばらくはひなを連れた親鳥の姿も見られますが、それも短い間で、数週間もすれば完全に独り立ちしなければなりません。野生の世界で大人になるのは厳しいことですが、それを乗り越えた鳥たちを見ると愛おしく、勇気をもらえるような気がするのです。

 

今週のお題「おとなになったら」