かもさんのひそひそ話

耳をすませば聞こえてくるよ

細かいものをじっと見つめる

さいころから本が好きでした。幼稚園の外遊びの時間にも、外に出ずに本を読んでいたいと思っていました。図書館にも足しげく通って、借りられる上限いっぱいまで本を借りて帰るのが常でした。ですが、あのころ読んでいたはずの絵本の記憶はほとんど残っていません。読み返すとああこんな話だった、と思いますが、どんな本を好んでいたかや好きな話は何だったかなどは全然出てこないのです。一度にたくさん読みすぎて、頭の中で全部がごちゃ混ぜになっているのかもしれません。

 

そんななかで唯一覚えているのが、「はじめてであう すうがくのえほん」というシリーズです。ほとんどの本を図書館で賄っていた実家に、唯一置いてあった絵本だったのです。兄がもらったものか、あるいは幼稚園のバザーで買ってきたものなのか、私が読み始めた時にはすでに、本の中にはえんぴつの落書きがたくさんありました。表紙も中のページもよれよれになっていて、背表紙の角のあたりはほつれていました。それでも自分の持ち物と主張できるその絵本は私にとっては大切なもので、繰り返して何度も読みました。

 

すうがくの、という題名の割には、とくに数字や算数のことは書いていなかったと思います。並んでいるいくつかの展開図のうち立方体になるのはどれか、や、動物のなかに植物が混ざっているイラストのなかで仲間外れはどれか、など、ストーリー性の無いクイズのようなテーマが並ぶページがほとんどでした。

 

その中で気に入っていたテーマが、身の回りの点々でできているもの、というものでした。本に印刷されている絵をどんどん拡大していくと、そのうち赤、青、黄の点々が見えてくるよ、という内容です。これを初めて知ったときは本当に驚いて、絶対にうそだと思いました。幼稚園で絵を描く授業をしたときには、色は混ぜて作るものだったからです。混ぜない色を並べて別の色になるなんて、全然信じられませんでした。でも確かに、目を近づけてよくよく見ていると、どの本の絵にも点々が見えてくるような気がしたのです。

 

そしてその続きには、テレビの映像も点々でできている、とありました。これまた驚きで、映っている人が点々でできるわけがない、絶対に確かめてやると思いました。そのころは限られた時間しかテレビは見せてもらえなかったので、テレビの時間になるのをどきどきしながら待ちました。そしてついにその時間になったのですが、画面をよく見ようと近くに行くたびに、目が悪くなるからやめろとこっぴどく怒られました。結局それを確かめられたかは定かではありません。もうテレビは見せないとひどく叱られたことだけよく覚えています。

 

今、無性にもういちど確かめてみたくなって、テレビの画面をつけてみました。いくら凝視しても点が細かすぎて色を見分けることはできず、目がちかちかしてやめてしまいました。原理を理解していても、それを体感するのは難しいものです。

 

 

お題「大好きな絵本は何ですか?」