かもさんのひそひそ話

耳をすませば聞こえてくるよ

金色に輝く美しい町

街並みや建築よりも自然の景観が好きで、心に残っている旅行先も雄大な景色で知られる場所が多いです。ただ、その中で唯一、街並みの美しさに惹かれて何度も訪れた場所があります。それが、ハンガリーの首都ブダペストです。

 

ブダペストに初めて行ったのは、イタリアに渡ってすぐのころでした。イタリアの強烈な日差しと乾いた空気、どこを見ても古代ローマからの遺跡群という重みから逃げたくて、別の場所に行ってみたくなったのです。ブダペストを選んだのは、その時の航空機代がお手頃だったというだけの理由で、そこに何があるのかはあまり意識していませんでした。

 

ブダペストの町はずれのホテルに到着したあと中心部に向かう地下鉄に乗り、駅から外に出たのはもう夕暮れ時でした。ぶらぶらと土産物店をひやかしながら町を歩き、ある曲がり角を曲がると、そこに金色に輝く壮麗な建物がありました。石造りのような外壁が温かみのある黄色い照明に照らされ、装飾的なドームや沢山の尖塔の先までが輝いていました。周りを飛び交うコウモリまでが、燃え上がる火の粉のようにきらきらと光っていました。そこがハンガリーの国会議事堂だった、というのは、あとで地図を見て知ったことです。そんな情報はどうでもいいほどに、だんだん日が落ちて暗くなっていく中を、時間も忘れてその建物に見とれていました。初めてヨーロッパを見た、と、その時思いました。

 

ブダペストドナウ川に沿って広がる町で、川にはいくつもの橋が架かっています。夜になるとその橋がそれぞれにライトアップされ、ドナウ川にその光を落とします。歴史を感じる吊り橋に点々と灯る柔らかなあかり、向こう岸に見える古い城、その足元を走る古めかしい路面電車、そのすべてに胸をゆすぶられ、心を奪われました。人間はこんなにも美しい場所を作れる、それが信じがたいほど美しく感じる場所でした。

 

ブダペストにはその後、何度も訪れました。美しいだけではない歴史がこの町にあることも、徐々にわかってきました。夜には輝いていた町も、太陽のもとではくすんで見えるときもありました。中東からの難民が東欧に流入してきた時期だったため、訪れるたびに路上生活者が増えていたことも印象に残っています(これを受けて、ハンガリーの南側の国境に壁が作られる事態となりました)。

 

それでも、ブダペストの輝きは心をとらえて離しません。これからも何度となく訪れてしまうだろうと思います。

 

今週のお題「行きたい国・行った国」