かもさんのひそひそ話

耳をすませば聞こえてくるよ

父の野菜定期便

実家の父の趣味の一つは家庭菜園です。30年以上前に市民農園の一角から始めたそれは、一時期は趣味の域を越えるのではないかという規模になっていました。離農するコメ農家から棚田を借り受けて車で片道1時間以上かけて田んぼの管理に通い、シイタケ農家から原木を譲り受けて林の中に原木の棚を作りあげ、市の農産物品評会にトマトや里芋を出品して優秀賞をとったりしていました。

 

私たち兄弟が大きくなっていくのと同じく菜園の生産性は年ごとに上がっていって、とれた農産物は家族全員の腹を満たしてくれました。コメも野菜もほとんど買う必要がないくらいでした。ちょっと大変だったのが、野菜は旬になると大量にできるということです。特にナスやピーマンなどの夏野菜は一時期に大量にとれ、そこまで保存性もよくないので、食べきるのに必死でした。山積みになったキュウリを目の前にして途方に暮れたこともあります。

 

父も年を取り、また農地を取り巻く環境の変化もあって、少しずつ菜園の面積は縮小しています。一方で、作物の収量と品質を上げることへの父の情熱は尽きず、実家に帰るたびに農業関連の本が増えているのを見ます。最近ではインターネット動画を通じて勉強もしているようです。ただ、老夫婦2人の生活では収穫した野菜を持て余してしまうようで、ここ数年、父から毎週野菜が届きます。

 

今はスナップエンドウとキャベツ、新玉ねぎの時期で、もうすぐソラマメやトマトが届き始めるでしょう。野菜を詰めた段ボールの箱のふたに、父は時々野菜の名前などのメモを書いてくれます。珍しい海外の野菜を試しに作ってみて、種名や特徴、料理法を書き添えて送ってくれることもあります。偏食の父は見慣れない野菜を自分では絶対に食べないのですが、味には興味があるらしく「うまかったか」と後から聞かれることもあります。みかん箱いっぱいにフェンネルが送られてきたときにはちょっと困りましたが、たいていの場合は文句なしにうまかったと答えることができます。

 

最近、そのメモの字が細かく震えていることに気づきました。昔はボールペンで細かく書かれていたメモが、最近は太いマジックで大きく書かれているようになりました。父ももう80歳近くになり、徐々に体が衰えてきているようです。それでも、できるだけ長い間、父の作る野菜を食べていたいと思うのです。

 

 

 

今週のお題「メモ」