かもさんのひそひそ話

耳をすませば聞こえてくるよ

カレーの思い出

実家では、毎週金曜日はカレーの日でした。兄弟が多かったからメインの具材はいつも特売の牛すじ肉で、祭りで使うような大鍋に大量のカレーを煮込むのが毎週の仕事でした。両親が辛いもの好きだったので、辛口のカレー粉にさらに唐辛子やスパイスを足したのが我が家の味でした。唯一辛いものが食べられない兄には、カレー粉を足す前に取り分けておいたものでハヤシライスにしていました。よく食べこぼしをする弟は、カレーを食べる時にはいつも上半身が裸になっていました。

 

そんな中で育ったので、カレーはいつも身近な食べ物でした。大学に入ってスープカレーインドカレーといった「普通じゃない」カレーを知ってから、カレー愛はどんどん高まっていきました。会社に入って昼食を社員食堂でとるようになると、ほぼ毎日カレーを頼むようになりました。カレー担当のおじさんに顔をおぼえられて、何も言わずともアイコンタクトで量の加減をしてもらえるようになったのはいい思い出です。

 

カレーの一番の魅力は、なんといってもあの香りです。町を歩いていると数軒先からでもわかる、カレーそのものといった香りに惹かれます。夕方の帰り道でこの香りをかぐと、何とも言えない切ない気持ちになります。家に帰って、その香りの元が自宅と分かるとすこし嬉しい気持ちになります。今では我が家でも、毎週のようにカレーを作っては食べているのです。週に二度、ということもあるくらいです。

 

紆余曲折を経て、我が家のカレーはルー少な目、野菜多めが定番です。メインの具材は鶏・豚・牛なんでもよく、イカなどもよく使います。そこに大きめに切った季節の野菜をたくさん入れます。今の時期だと大根やブロッコリーがおいしいです。そして、できるだけ野菜の水分だけで、あまり煮込まずに作るのが好きです。仕上がりの見た目は、炒め物か水分少なめの煮物かという感じです。それをご飯の上にたっぷりかけて、具材をがしがしと噛みながら食べていくのがおいしいのです。

 

イタリアに住んでいたころ、同じイタリア語学級に通っていたインド人のおばさんが、豆のカレーを大きなタッパーいっぱいにくれたことがありました。お互いの共通語が拙いイタリア語しかなかった時に、それでも盛り上がるのは食べ物の話だったのです。昨日は何を食べましたか、今日は何を食べますか、のやり取りの中で、私のカレー好きが相手にとても強く伝わったようです。ベジタリアンの彼女が作ったカレーはとてもさらっとして、見た目も香りも優しいとてもおいしいいカレーでした。帰国して何度も同じ味を作ろうとしたのですが、なかなかうまく再現できていません。

 

カレーを作るたびに、そのおばさんのことを思い出します。そして、「別れる相手に花の名前を教えなさい、毎年その花が咲くたびに相手が自分のことを思い出すように。」という、川端康成の小説の一節を思います。そのたびに、おばさん、私は毎年どころか毎週のようにあなたのことを考えていますよ、と、少しおかしな気分になるのです。

 

お題「〇〇が実は大好きです!」