かもさんのひそひそ話

耳をすませば聞こえてくるよ

ベートーヴェンとグミの町

社会人になってクラシック音楽にのめり込んだ私が、一番はまったのはベートーヴェン交響曲でした。オーケストラや指揮者ごとにCDを買い集めては延々と聞き込んでいました。中でも第九がことのほか好きで、年末の風物詩だというのに年がら年中カーステレオでかけていて、分かりもしないドイツ語の合唱の歌詞を覚えてしまったほどです。

 

それだけのめり込んでいたので、ヨーロッパに住むことになってすぐに、ベートーヴェンのゆかりの地を巡ってみようと思い立ちました。住んでいた家々を巡って作曲に使われたピアノを目の当たりにし、よく散歩していたと言われる道を歩き、埋葬された墓地にバラの花を供えました。そうやって、彼の感じていただろう音や風景を味わうことで、より彼の音楽の世界に近づけるような気がしました。

 

その一連の旅の中で、ドイツのボンという町に、彼の生家を訪れたことがありました。それはピンク色の可愛らしい家で、厳しい顔しかみたことのない音楽家とは何となく似つかわしくなく面白い気持ちになりました。それでも、今は博物館になった家の中で、彼の残した手紙や楽器、晩年の衰えた聴力を補うための補聴器などを眺めていると、ある一時期に本当に彼がそこにいたんだなと感慨深くなりました。

 

さて、この町はベートーヴェンの生まれた町であると同時に、HARIBOというグミメーカーの本社工場がある場所でもあります。黄色いクマがトレードマークのポップな色柄のグミです。実は私はこのグミのファンでもあり、一時期は食べ過ぎて顎が痛くなったほどです。そしてこの町にはHARIBOの直売店があり、ここまで来たからには是非行こうと思っていました。

 

はるばる訪れたその店は、色とりどりのグミが並ぶ夢のような場所でした。店の中の空気がグミの色のような気がするほど、甘い香りがたちこめていました。日本では見たことのない味の商品がいくつもあり、ついつい小さな買い物かごいっぱいに色々なグミを買い込んでしまいました。食べてみると何だこれはという味のものもありましたが、好きなものを大量に部屋の中に溜めこんでちびちび食べていると、何か小動物めいた幸せを感じました。

 

今でも街なかでHARIBOのグミを見ると、鮮やかなパッケージとは似合わない大作曲家のことが脳裏に浮かびます。そして私の大好きなものを2つ産んだあの町に、また行ってみたいなと思うのです。

 

今週のお題「好きなグミ」