かもさんのひそひそ話

耳をすませば聞こえてくるよ

花が歴史を物語る

私は今、築60年くらいの集合住宅に住んでいます。敷地内には5階建ての建物がいくつも並び、建物の間のちょっとした空き地には芝や木が植えられています。住民の入れ替わりが多く、3月から4月にかけては毎週のように引っ越しのトラックが来て荷物を出し入れしています。

 

この家は古いですが住むには面白いところです。なかでも気に入っているのが、春から秋にかけて様々な花が咲くことです。出ていく住民がベランダで育てていた花を空き地に置いていくことがあり、それらが根付いて毎年花を咲かせるのです。冬の間は茶色く枯れはてていた空き地に緑がぽつぽつと見え始めるとすぐ、色とりどりの花の季節が始まります。

 

スタートを飾るのはスイセンです。白い花びらに黄色い芯のタイプが一番多く根付いていて、いたるところで目にします。変わり種としては、芯が白いもの、花びらがフリル状になっていて花がたくさんつくもの、背が低くて小ぶりな花が咲くもの、スズランのように下を向いて咲くもの、などいろいろとあります。過去の住人たちの好みがそのまま受け継がれていて、さながらスイセンの博覧会のようです。この時期にはスイセンの花の香りがあたりにただよい、春を感じさせてくれます。

 

スイセンが終わると、ニオイスミレとハナカタバミが咲き始めます。それを追うようにハナニラユキノシタイベリスシバザクラ、アッツ桜…と、それぞれの花の群落が入れ替わり立ち代わりで花を咲かせます。雑草なのか、名前の分からない花もそこに交じり、徐々に勢力を拡大しています。5月の連休の前にはいったん草刈りが入り、花はなくなってしまいます。でもすぐにまた成長し、花を咲かせ始めるのです。たくましいものです。

 

顔もしらない沢山の人が住んできたこの建物の歴史を、花が物語っているようです。人はいなくなっても花は残るんだなと思います。

 

今週のお題「お花見」