かもさんのひそひそ話

耳をすませば聞こえてくるよ

踏み出せば何とかなる

コロナの症状も随分と落ち着いて、日常生活に復帰しました。いただいたコメントには随分と励まされました。ありがとうございました。

 

発熱や抗原検査での陽性結果などの目に見えるものは無くなりましたが、いまだに咳と倦怠感、味覚異常は続いています。これについては厚労省の情報(まだ不明な点が多いものの、時間経過とともに症状が改善することが多い)以上のものはなく、出来るだけ気にしないことにしています。

 

こんな中ではありますが、近々2週間ほどの海外出張に行けることになりました。休職前に何度も参加した学会と、その会場周辺の顧客訪問が主になります。復帰したらまた行きたいと思っていた学会なので嬉しさが半分、きちんと役目を果たせるだろうかという不安が半分です。いえ、不安が大半かもしれません。

 

せっかく与えられた機会でいい成果を出せるのか、ここで何かを残さないと次はないのではないかという焦りが頭をよぎります。実際にはそんなことも無いはずなのに、身についた強迫観念は根強いものです。ちゃんと英語で議論できるのかも不安です。いくらTOEICで良い点をとっていても、結局それだけでは自信には結びつかないようです。焦りや不安を乗り越えて強くなるためには場数を踏まなくてはなりません。

 

遠くの山は高く、頂上に辿り着くのは困難に見えるものです。一方で、少しずつでも前に進んで行けたら、必ず目的地には到着できます。遠くを見て足がすくんでしまう時には、足元の一歩をまず踏み出すことです。そうやって小さな達成感を身体に覚えさせていけたら、いつのまにか自分の後ろには道ができているはずなのです。

 

不安で押しつぶされそうになりながら乗り込んだ通勤電車でしたが、この文章を書いていると、今日一日を何とか乗り切れそうな気がしてきました。この調子で一日ずつ、やるべきことをしっかりとこなしていこうと思います。

 

やはり逃げきれなかったか

少し頭が重い気がして体温を測ると、まさかの39℃越えでした。検査をするとはっきりコロナ陽性でした。

 

デルタ株の流行の頃に何度もCOCOAの通知(うち2回は数時間の接触)を受けて、また周りに何人も感染者がいたのに自分は発症せずにすんでいました。心のどこかで自分は罹りづらい体質ではと思っていましたが、そんなこともなかったようです。

 

熱は2日ほどで下がり、今はしつこい咳に悩まされています。肺がひっくり返るような激しい咳が時折出て、咳が出るのが怖くて息を思い切り吸うことや声を張って話すことができません。何かよく効く薬があるわけでもなく、ただ回復を待つのみです。だんだん咳喘息のようになりつつあるのが怖いです。味もなんだか感じづらい気もします。

 

罹ってみて分かるのが、意外に身の回りに感染経験のある人が多いことです。これまであえて話題に出していなかっただけで、身の周りの罹患率はここひと月ほどで3割程度に上がっていたことが分かりました。まさしく文字通りウィズコロナですね。

 

病院からもらった案内によると、5日くらいで大抵は軽快するとのことです。早く良くなりますように。

 

酷暑の夏、虫の変化

*今回は虫の話題です。苦手な方は気をつけてください。

 

我が家のベランダにはたくさんの鉢植えがあります。お盆休み明けに帰宅した時には皆、水が枯れてぐったりとしていましたが、慌ててたっぷりの水をやると翌日には復活していました。植物というのは強いものです。

 

植物にはさまざまなお客さんが来ます。野鳥を除いて1番多いのはレモンにくるアゲハ蝶で、時おり幼虫が葉をサクサクと音を立てて食べています。ずんぐりとした体付きが何とも可愛らしく、1匹くらいは羽化しないかと期待しているのですが、いつもいつの間にか鳥に食べられて姿を消しています。

 

次によく来る、そしてあまり歓迎できないお客さんはオオスカシバです。ハチと蛾の合いの子のような見た目で、愛好家もいるらしく飼育している人もちらほらインターネット上で見かけます。ただ、幼虫がクチナシの葉を凄い勢いで食べてしまうので、見つけ次第別の場所にさよならしています。一度などは幼虫にしばらく気づかず、クチナシの木がほぼ枝だけという有様になってしまいました。その後、幼虫を全部よけてやると葉は生えてきましたが、よほどのダメージだったのか花をつけなくなってしまいました。

 

花も無いのにどうしてオオスカシバがこのクチナシの存在を知るのか分からないのですが、ほぼ毎年、夏の間はこの虫との戦いが続きます。そして今日、いつもの幼虫に似ているけれど体や足の模様が違うものを見つけました。初めて見る形態だったので興味をひかれて調べてみると、同じ属の『リュウキュウオオスカシバ(以下リュウキュウ)』という虫と分かりました。図鑑によると、我が家から遠く離れた南西諸島や九州南部、四国南部に分布しているそうです。また、通常のオオスカシバが25.5℃から28℃未満で羽化するのに対し、リュウキュウは26.5℃から28℃以上の温度帯で羽化するとのことで、より暑い地域に適応した種と言えそうです。

http://science.ryukyushimpo.jp/wp-content/uploads/2017/tida/201726.pdf

 

種の分布が急激に変わることは考えづらいので、図鑑の説明とは異なりますが、リュウキュウも実は我が家の近くに細々と暮らしていたのだと思います。そして、今年はいわゆる春の時期が短くすぐに真夏日が続くようになったため、オオスカシバが羽化の時期を見失い、リュウキュウの方が優勢になっているのかもしれません。

 

これが今年だけの傾向なのか来年以降も続くのか、とても興味深いです。一方で、オオスカシバにせよリュウキュウにせよ、やって来られるとクチナシの木が痛んで可哀想なので、できれば来ないで欲しいのが本音です。

 

 

 

 

日常にただいま

礼文島から帰ってきました。台風の影響なのか往路にあんなに酷く渋滞していた高速はがらがらで、予定時間より大幅に早く目的のバス停に到着しました。

 

そこから先は電車で自宅近くの駅まで向かいます。いつも通勤に使っている路線で、改札を通るときには定期券利用という表示が目の端をよぎります。暑く湿った空気を吸うときや人ごみをすり抜けて道を進んでゆくときよりも、ああ帰ってきたな、と感じさせられる瞬間です。大体の遠出の時はいつも、この路線を通るのです。

 

仕事帰りの乗客とあからさまに行楽帰りの乗客が入り混じり、仕事帰りのひとは少し迷惑げな表情です。私も逆の立場なら、意識的にせよ無意識にせよそんな気配を出しているのかもしれません。そして明日からはまた、その一員として日々を送ることになります。

 

電車の中の人は、照明のせいかみな疲れて見えます。これだから都会は、という考えがよぎってすぐ、それは違うなと思い直しました。出かけた先の観光地の人々が楽しげだったのは、お客さんとしてやって来た人か、それを職業人として出迎える人しかいなかったからです。そんなハレの日の、ある種虚構的な雰囲気と引き比べて今いる場所を見下すのは何か間違ったことに思ったのです。電車で疲れている人は、誰かのハレを彩った人かもしれません。そして、ケの日を着実に生きることも、次のハレを迎えるためには大事なことなのです。

 

不在の間に膨れた未読メールやチャットを捌いて、休みの前から持ち越しになっている課題やいつの間にか持ち上がっているだろう問題に立ち向かう日常がまたやってきます。それはそれで楽しい日々であったと思い直して、明日からまた頑張ろうと思います。

 

 

 

 

天気晴朗なれども

利尻島を離れ礼文島に来ました。ここでも晴天に恵まれています。

 

ただ、吹きさらしの風が思いのほか強く、時折足元をすくわれるほどでした。崖の上を歩くトレイルコースでは風に煽られて足を踏み外すのではと景色を楽しむこともできず、低地に戻ったときにようやく、随分と足がすくんでいたことに気づきました。風速は20メートルほどあったようです。一方で、風で波が起こるのを目の当たりにして、波のでき方を知識としては知っていても実際に見るのは初めてだったので、小さな感動を覚えました。

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島の大半は草で覆われていて、見渡す限り草原が続いています。葉の裏側が白いヨモギのような草が多く、風が吹くたびに葉がそよいできらきらと輝くように見え、草の柔らかい香りがあたりに漂います。草の間には小さな花が見え隠れし、そこに蜂や蝶が集まります。その向こうの海の上には利尻岳がそびえています。

 

信じている訳でもないですが、もし天国という場所があるならこんな場所だったらいいなと思いました。

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2週間ぶりの晴れ間

2日間の曇り空のあと、ついに山全体の姿が見えました。こんなに晴れたのは2週間ぶりだそうで、観光客よりも地元の方のほうが喜んでいました。たしかにそんなに天気が悪いと、漁業関係者の多い島では影響が大きそうです。ウニも不漁で、例年の3から4倍の値段がついているようです。

 

利尻島は山を中心にして道路が海岸沿いをぐるりと一周していて、どの場所からも違った表情の山が見えます。打ち寄せる波や広い草原の向こうに立つ山を見ていると、昔の人が山に神の姿を重ねていたことにもうなづけます。時に荒々しく、時に優しく恵みを与える存在として、昔も今もあり続けているのだと思います。
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海から吹き寄せる風は強く、帽子型のヘルメットをかぶって原付を走らせているとメガネが飛ばされそうになります。吹く風はいつも向かい風で、耳元でずっと風の音が鳴り続けます。そのせいか海岸沿いに背の高い植物はほとんど見えず、どこまでも見通しがきいて地の果てまで走って行けそうです。道を走る車もほとんどなく、誰にも聞こえないのをいいことに、松山千春の『大空と大地の中で』をつい熱唱してしまいます。この風はロシアから吹いているのか、ついすぐそこにはサハリンが見えるはずだ、などと考えていると、国境という概念が自分の中で段々と薄らいでいきます。

 

夕日が沈めば今日の活動は終わりです。明日もいい天気になりますように。

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利尻にて

夏の暑さに耐えかねて、色々な交通機関を乗り継いで利尻島までやってきました。今日の最高気温は18℃、半袖で歩いているのは観光客ばかりです。

 

大学生の頃、一度だけこの島に来たことがあります。その時は勢いで利尻岳に登りました。昔登っていた山よりも標高が低かったので、少し甘くみていたと思います。でも、海抜ゼロ付近からの登山は思ったよりもかなりきつく、脆い山道とあいまって山頂に着いた時にはほうほうの体でした。改めて登山ガイドを見ると、随分と無鉄砲だったことに気づいてヒヤリとしました。昔通った道は今は崩落が進み通れなくなっているそうです。

 

今回は登山はせず、麓から景色を眺めて過ごそうと思っていました。ただ、最近はあいにくのお天気が続いているようで、昨日は豪雨、今日も厚い雲に覆われて山体は見えませんでした。地元の方によると、この夏に入って山が見えたのは数日ほどだそうです。今回の滞在で晴れるかどうか、運が試されます。

 

今朝は昨夜からの雨が残っていたので、宿の部屋で雨音を聞きながら高校野球を眺めていました。時折、港に入るフェリーの汽笛や、飛行機の欠航を知らせる町の防災無線の音が耳に入ってきます。風の音、波の音も感じます。それらを聞くともなく過ごしていると、昔ながらの小さい民宿にいながらとても贅沢な時間を過ごしている気がしました。

 

昼過ぎ、雨が上がったので、原付を借りて島を廻ってみることにしました。湿気をたっぷりと含んだ空気も、この気温ではまったく不愉快ではありません。海岸線を容赦なく吹きつける風に上着が膨らみ、指先がかじかみます。ちょっとした展望台に立って周りを見渡すと、空間の広さに圧倒されます。

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北の土地独特の、白っぽい緑色の葉をした植物が風に揺れるさまを見ていると、時間がいつの間にか過ぎていきます。この厳しい気候の中で、植物は思いのほかなよなよとした風情です。道端に生える草でさえ、雑草と呼ぶには淑やかにすぎる花を咲かせています。

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北の夏に殊の外惹かれるのは、気候の過ごしやすさもさることながら、生き物の強さをより感じられるからかもしれません。動物も植物も、短い夏を逃すまいと精一杯体を広げている気がして、その姿を見ると胸をつかれるのです。