かもさんのひそひそ話

耳をすませば聞こえてくるよ

甘い納豆

大学生のころに住んでいた寮は共同の台所と食事スペースがあり、偶然行き合った人となんとなく話しながら食事をすることが良くありました。寮生はさまざまな地方から出てきた人で構成されていて、互いの食文化の違いに驚かされることもしばしばでした。

 

なかでもびっくりしたのが、納豆に白砂糖と七味唐辛子をたっぷりとかけて食べる人を見た時です。納豆には付属のタレとカラシを入れる以外の発想が無かった私にとって、それはまさに未知との遭遇でした。味の想像も全くつかなくて、半ば罰ゲームなんじゃないかと思ったほどです。でも、食べている人はごくごく自然体で、うまいともまずいともつかないただの日常のような顔をして納豆トレイからずるずると豆をかきこんでいました。その人とはそこまで親しくなく、互いに目に入らない風を装いながらも、私の頭は興味でいっぱいでした。

 

翌日、3パック入りの納豆をいそいそ買い込んできて、タレとカラシはみみっちく冷蔵庫のポケットにしまい、納豆の上のビニールを剥がして思い切って砂糖をざぶりとかけて見ました。さらに七味唐辛子をこれまたざばざばとかけました。豆の茶色の上に砂糖の白、唐辛子の赤が乗り、とてもおかしな見た目です。これをぐるぐるとかき回すと、砂糖が思いの外しっとりとした糸になり、いつもの納豆よりもずいぶんふっくらとした泡立ちになりました。ちらちらと散った赤が意外にいいアクセントです。

 

そのまま口に運んでみると、これがまた思った以上に悪くないのです。豆自身の旨みをベースに、粘りのおかげでマイルドになった甘さがその上に乗り、納豆自体のクセがいい具合に和らいでなんとも上品な味わいです。さらに溶け残った砂糖のジャリっとした食感や、後から追いかけてくる七味唐辛子の辛さが良いアクセントになっています。罰ゲームどころかかなり美味しい、新しい味との出会いでした。

 

この甘口の納豆は、その後の大学生活での私の定番になりました。研究で疲れた時に口にすると、砂糖の甘みと豆の味わいにほっとしました。当座動くために必要な栄養もある程度摂取できた気がして、心も体も満たされました。

 

寮を出て一人暮らしを始めると、砂糖を買う習慣が無くなりこの食べ方もいつしかしなくなりました。共同の台所の中の共同購入した砂糖という仕組みがあったからこそ巡り合った味だったのですね。味の記憶というのはすごいもので、今でも何となく舌の上に蘇らせることができます。もう一度作って食べてみたいような、でも記憶と違うことが怖くて試せないような複雑な気持ちです。

 

今週のお題「納豆」