かもさんのひそひそ話

耳をすませば聞こえてくるよ

アメリカンドッグ売り上げNo.1の夏

大学生のころは、時間を見繕って色々なバイトをしました。家庭教師、国会議員選挙の管理、スーパーの試食販売員、農場でのジャガイモやトウモロコシ回収などなど、デスクワークから肉体労働まで様々です。中でも印象的だったのがお祭りの屋台での飲食販売、いわゆるテキ屋です。

 

知り合い経由で話をもらえたその仕事は日給一万円を超え、当時としては破格の待遇でした。何より、売り物を好きなだけ食べてもいいというのが、貧乏学生の身にはとてもありがたい内容でした。お祭りの食べ物は高いうえに何が入っているか分からないからと、小さい頃は一度も親に買ってもらうことがありませんでした。それが食べ放題と言われると、粉物が多くてそんなに食べられないとしても、とても魅力的でつい興奮してしまいました。

 

何度か働いているうちに、段々と役割が決まってきます。私がよく担当したのはアメリカンドッグの屋台でした。粉を深さ1mはあろうかという大きな寸胴鍋にどさどさと適当に入れ、水をこれまた適当に入れ、工事用ドリルの先に泡だて器をくっつけたような機械でいい加減に激しくかき混ぜます。これでアメリカンドッグの衣の完成です。毒々しい赤い色の棒付きのソーセージに衣をたっぷりとまとわせ、フライヤーで揚げると1本500円のアメリカンドッグに早変わりします。レシピなどという大層なものはなく、原価なんて考えるのも馬鹿馬鹿しいほどの一品でしたが、お祭りの賑やかな雰囲気も相まっていつもなかなかの売れ行きを見せてくれました。

 

この商売を取り仕切る親方が、商売の具合を時々確かめに来ます。ここでお眼鏡にかなわなければ即首切りで、その日のお給金を渡されてお役御免になるらしい、ともっぱらの噂でした。一方で売れ行きが好調なら、そのお店の取り仕切りをある程度自由にやらせてもらえました。初日に幸いにも首にならず、翌日からお店を任されたときはとても嬉しかったです。現金なものですが、やはり裁量があるだけでやる気はずいぶんと上がりました。

 

売り上げは、お店の前で立ち止まってくれる人の数に比例します。足を止めさせればこっちのものです。周りを見渡せばだいたい同じものが売られている中で、お客さんの顔を見て適切そうな声かけをし、時には試食やおまけで釣って、と工夫を繰り返しているとあっと言う間に夜になります。粉まみれ、油まみれでとてもきれいな商売とは言えませんでしたが、お祭りの雰囲気の一部になって場を盛り上げているという実感は、どのアルバイトよりも自分を高揚させてくれました。そして何より、アメリカンドッグが売れるたびに積みあがっていくお札の山を見ると、本当に単純にもっともっと稼ぎたくなりました。そうして夏祭りのシーズンが終わる頃に、今期の売り上げがトップだった、来年もまた来てほしいと親方から告げられました。それが今でも嬉しい思い出です。

 

翌年、研究室に配属されて、アルバイトの時間は全く取れなくなりました。そして親方とは再び会うこともなく、就職して大学のある町を離れました。コロナ禍でテキ屋稼業も苦しかっただろうと思います。今もどこかで元気にして、祭りを明るく盛り上げていてほしいと願います。

 

 

今週のお題「やったことがあるアルバイト」