かもさんのひそひそ話

耳をすませば聞こえてくるよ

歌の向こうの感情に励まされる

ミュージカルは苦手だとずっと思っていました。本来はせりふのあるところに急に歌が入ってくると、急に現実に引き戻されてストーリーに入り込めなくなる気がしていました。小学生の体験学習で見た子供向けのミュージカルで抱いたその気持ちのまま、大人になっても何となくその分野の映画や劇は避けていました。

 

そんな中で、キャッツを見ようと思ったのはただの偶然でした。コロナ禍での外出自粛が続き、やることのストックがどんどん尽きていっていたころに、有名だけど見ていなかった映画をAmazon Primeで見始めました。そのうちの一つにキャッツがあったのです。

 

見始めはやはり、昔見たミュージカルと同じように、なんだか入り込めないという印象でした。独特のCG画像と舞台化粧、またストーリーを全く知らずに見始めたこともあって、すこしさめた目で流し見をしていました。それでも劇中の歌やダンスは見ごたえがあり、さすがに話題になるだけのことはあるなあと思いながら見続けていたのです。

 

感情の潮目が変わったのは、終盤の一曲でした。出演者の一人のジェニファー・ハドソンが「メモリー」を歌い始めた時です。有名な曲で耳なじみがあったので、思わず耳を傾けました。そしてそのまま、歌声に心をつかまれました。

 

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かつては魅力的だったが老いて美貌を失い周囲から疎まれている元娼婦の猫が、古い美しい思い出を思って歌う、というのがこの曲の背景です。歌詞は全然知らなかったので、字幕の文章を手掛かりに意味をたどって聞いていました。でも、途中から設定も歌詞もどうでも良くなりました。耳と目と心が直接つながって涙が出ているのでは、というくらい、涙が止まらなくなったのです。

 

歌っている人の感情と歌声が自分の心とただ共振しているようでした。相手の感情がただ流れこんできて、それに乗って自分が涙を流しているような感覚でした。長い曲ではありませんが、この一曲だけでティッシュを何枚も使ってしまいました。今思うと、その曲を歌う登場人物の抱えるつらさが、その当時の自分の鬱屈した感情や閉塞感を昇華してくれたのかもしれません。音楽という抽象的な表現だからこそ、すこし形の違うつらさにも寄り添うことができたのだと思います。

 

結局今でも、この映画のあらすじや結末はうろ覚えです。でもあの一曲は素晴らしかったなぁと、いまでも印象に残っています。これを聞くためだけにでも、劇場に足を運んでこのミュージカルを見てみたいとも思います。そんな新しい扉を見せてくれる映画に、出会うことができて良かったです。

 

お題「邦画でも洋画でもアニメでも、泣けた!というレベルではなく、号泣した映画を教えてください。」