かもさんのひそひそ話

耳をすませば聞こえてくるよ

生きている文化

能登を訪れた目的の一つが、輪島に行くことでした。輪島塗の制作の工程を見てみたかったからです。

 

ものができていくまでの道のりを見ていると飽きることがありません。輪島塗の制作は木を削りだすところから始まり、最後の製品になるまで100以上の過程を踏むそうです。丸太からろくろで削り出されたばかりの荒々しいお椀が何度も磨かれて艶やかに光る食器になっていく様子は、たしか最初は小学校の社会科の図録で見たのだと思います。そのページはその年の教科書のなかで一番のお気に入りで、授業中に何度も見返しましした。輪島の漆芸美術館や工芸館では、まさにその制作過程の映像と作成途中の漆器が展示されていて、時間を忘れて見入ってしまいました。

 

薄く削り細かく砕いた貝殻で模様を表現する螺鈿、漆で描いた模様の上に金箔を貼り付けて仕上げる蒔絵などの装飾の技術も巧みで、職人の手元を見ていると意識がすうっと吸い込まれていきます。作業の際はただの線や面だったものが全体を見ると見事な描写になっていき、単純な色で構成されているはずの絵が技法の組み合わせで陰影を感じることに驚きました。

 

焼き物とは違うとろりとした艶、塗り重ねた表面から透ける下地の色や木の質感、螺鈿や蒔絵のきらめき、それらを支える何人もの職人の技術にただ溜息がでるばかりでした。確かに食器としては高額ですが、それだけの価値があるものだと感じました。美しい器に囲まれているうちに夢見ごこちになり、つい自分用に小さいおちょこを買ってしまったほどです。

 

その日泊まった民宿では、輪島塗の皿やお椀が食器として普通に使われていました。長い間使っていても大して傷まない、むしろしまい込んでいるほうが乾燥で傷んでしまうのだと宿のご主人は言います。確かに若干の傷はありますが削れたり欠けたりはなく、しっくりと食卓になじんでいました。博物館に展示されるだけの死んだ文化ではなく、生活に根差して生きている文化っていいですね。買ったおちょこもしまい込まずに使っていこうと思います。

輪島の夕暮れ。波のない穏やかな海。

 

 

 

 

 

今週のお題「何して遊ぶ?」