かもさんのひそひそ話

耳をすませば聞こえてくるよ

いつもそばに置いて読み返してしまう本

小学生のころから折に触れて読み返す本があります。村上春樹の「ノルウェイの森」です。住んでいた町の図書館で偶然目にとまったのが、読み始めたきっかけでした。

 

主な内容は東京に住んでいる大学生の恋愛模様で、地方のぼんやりとした小学生にはそういった部分はまったくぴんと来なかったのですが、それでもいたく心に響いたポイントがありました。

 

まず、小説全体に漂うしっとりとした情感、湿度感のようなものです。雨に関する描写が特に多いわけではないのに、この小説のことを思うとなぜか雨のにおいがします。曇り空の下で広がるやわらかい草原とその先に見える木立、遠くに青く見える低い丘陵、雨のにおいを運ぶ風、というイメージです。湿度感があっても決して不快ではなく、ひんやりとして気持ちいい感覚がします。

 

そして、物語の中に描かれた何気ない描写が好きです。特に印象に残る場面は、下の引用にある部分です。

土曜の夜になると僕はあいかわらずロビーの椅子に座って時間を過した。電話のかかってくるあてはなかったが、他にやることもなかった。僕はいつもTVの野球中継をつけて、それを見ているふりをしていた。そして僕とTVのあいだに横たわる茫漠とした空間をふたつに区切り、その区切られた空間をまたふたつに区切った。そして何度も何度もそれをつづけ、最後には手のひらにのるくらいの小さな空間を作りあげた。

読み返すたびに、この美しくて寂しい気持ちにさせられる文章に引き込まれます。時々、あてもなく待ち時間を過ごしているときに、同じような空間を自分でも作ってみようとしたりします。

 

また、主人公の先輩として描かれる人物の言葉が、大人になったいまでも自分を支えてくれています。自分自身に厳しく常に高い場所を目指す姿に、初めて読んだ時からあこがれました。中でもこの2つの言葉は、自分がつらいと感じだときにいつも支えてくれています。

自分に同情するな。自分に同情するのは下劣な人間のやることだ。

努力というのはもっと主体的に目的的になされるもののことだ。

永沢さんというこの人物は、物語の中では幸せには見えず周りの人も幸せにはしません。ただ、それでも折れずに、きっと内側では葛藤もありつつもより強くなろうと立ち続けている姿は、本当に恰好いいなと思います。

 

書く習慣1か月チャレンジ、今日は「人におすすめしたい本」というテーマでした。本は選ぶ過程自体も楽しいと考えているのであまり人にお勧めする習慣はないのですが、それでもあえて選ぶとしたらやはりこの本かなと思いますね。